コンサーティーナの種類: アングロ、イングリッシュ、デュエット

コンサーティーナという楽器に初めて興味を持ち、「自分も演奏してみたいな」と思う人にとって、最初の障壁となるのが「一体どのコンサーティーナを選べばいいの?」という問題です。

少し調べてみれば分かるとおり、コンサーティーナには主に「アングロコンサーティーナ」「イングリッシュコンサーティーナ」「デュエットコンサーティーナ」の3種類が存在します。いったいどれを選べばよいのでしょうか? ここではその簡単な手がかりを示したいと思います。

アングロコンサーティーナ

アングロはコンサーティーナの中でも最も一般的と言える存在です。基準となる2つの調(キー)をカバーする2列のボタンと、多くの場合、別の調の半音等をカバーするために拡張された3列目のボタンが存在します。調というのは、楽譜の頭に付いている♯や♭の記号が示しているもののことですね。

アングロのコンサーティーナで最も一般的なのは、C調(ハ長調)とG調(ト長調)が基準となる楽器です。これを「C/Gアングロ」と呼びます。多くのC/Gアングロの楽器は、C調の10ボタン、G調の10ボタン、別の調の半音等をカバーする10ボタンの合計30ボタンからなり、これを「30ボタンのC/Gアングロ」と呼びます。30ボタンのC/Gアングロは、コンサーティーナの世界で最も一般的なものです。

アングロは押引異音(1つのボタンに対して、蛇腹を押したときと弾いたときで別の音が出る)で、低い音は楽器の左手側に、高い音は楽器の右手側に分かれています。

アングロのメリットは、基準となる調(またはそれに近い調)を弾くのが容易で、メロディと伴奏を両手で同時に弾くことが可能という点です。

逆にデメリットとしては、基準となる調から離れた調を弾くのは比較的難しく、伴奏も困難になる場合が多いです。

伴奏が可能なのでポップス等の弾き語りも可能ですが、♯や♭の多く付いた調の曲を弾くのはおそらく困難で、CかGに近い調へと移調する必要が出てくるでしょう。合唱やクラシックの曲など、他の多くの人と一緒に演奏したい場合、この特徴は不利な方向に働きます。相手を自分の楽器に合わせてもらう必要があるからです。

もしあなたがアイルランドの伝統音楽を弾きたいのなら、(他を選ぶ明確な理由がない限り)30ボタンのC/Gアングロを選ぶことが無難でしょう。アイリッシュでは伝統的にその楽器が最もよく使用されているからです。アイリッシュではGかD(♯が1つか2つ)の曲が一般的であり、それに近い調のC/Gアングロを選ぶことには一定の合理性があります。もっとも、「それではG/Dのアングロのほうが合理的ではないか」という議論もあるでしょうが、それは2台目以降の楽器が欲しくなったときに検討すればいいと思います。最初の一歩で少数派の楽器を選ぶことは、あまりおすすめしません。

アングロのメリットとして、楽器人口の多さから比較的試奏が容易という点も挙げられると思います。東京の谷口楽器さん、東京と京都に店舗を持つケルトの笛屋さんなどで試奏が可能だと思います。

イングリッシュコンサーティーナ

イングリッシュは最初に発明されたタイプのコンサーティーナです。アングロと比較して、非常に論理的なボタン配列が特徴です。

これを把握するには、画像で見てもらうのが一番です。Googleの画像検索で「anglo concertina layout」と検索したあと、「english concertina layout」と検索してみてください。イングリッシュのほうは五線譜とボタン配置が幾何学的に一致していることが確認できると思います。

もしあなたがピアノ等の別の楽器を習ったことがあり、楽譜に馴染みがあるなら、おそらくイングリッシュはアングロよりも自然なものとして映るでしょう。それに対してアングロのボタン配列は、少し非合理なものとして映るかもしれません。

イングリッシュは押引同音(1つのボタンに対して、蛇腹を押したときと弾いたときで同じ音が出る)で、音は低い音から高い音まで交互に左右に等しく分配されています。基準となる調はC(ハ長調)ですが、他の調への移調は容易です。

イングリッシュは単旋律(ひとつのメロディ)を素早く弾くことに向いています。また、調による制約が少なく、さまざまな和音(コード)を弾くことも可能です。

デメリットとしては、ボタン配列の構造上、それらを同時に行うことが難しいという点です。イングリッシュではメロディと伴奏を同時に弾くことは困難だということです。

アイルランド伝統音楽の世界では、イングリッシュはマイナーな存在です。先述のとおり、アイリッシュを弾くには30ボタンのC/Gアングロを選ぶことが最も一般的です。しかし単旋律を素早く弾ける楽器であるイングリッシュは、アイリッシュとも相性がいい楽器だと言えます。イングリッシュ奏者はアイルランド本国にも少数派ながら存在しており、この記事を書いている筆者もイングリッシュを使用するアイリッシュ奏者です。

イングリッシュは「メロディと伴奏」のように離れた音を同時に弾くことが難しい点を除いては、比較的汎用性の高い楽器だと言えます。ポップス等の弾き語りにも使用できますし、クラシック等の曲にも旋律楽器として使用できます。もちろんアイリッシュでの使用も可能です。

先述のように、アイリッシュでの使用では伝統的な理由からまずC/Gアングロをおすすめしますが、その他の用途であればぜひ選択肢の一つとして見ていただきたいのがイングリッシュです。先述したとおり、ボタン配列を画像検索してみてピンと来たら、この楽器を選んでみるのがよいでしょう。

デュエットコンサーティーナ

デュエットは比較的マイナーな存在ですが、ある意味ではアングロとイングリッシュのいいとこ取りと呼べるかもしれません。デュエットには実は MacCann、Crane、Jeffries、Hayden という4種類もの方式が存在するのですが、ここでは現代的な方式で入手も比較的容易である、Hayden(ヘイデン)デュエットについて述べたいと思います。

デュエットは押引同音で、低い音は楽器の左手側に、高い音は楽器の右手側に分かれています。この点でアングロとイングリッシュの両方の特徴が取られていますね。一部の音域は左手側と右手側で重複しています。

上記の特徴から、メロディと伴奏を両手で同時に弾くことが可能です。また、Haydenデュエットは移調が非常に容易であり、多くの調に対応することができます。

Haydenデュエットに関して、構造上の目立った短所は見つかりません。楽器自体がマイナーであることを気にしなければ、かなり幅広いシーンで役に立つ楽器であると言えるでしょう。

おわりに

各コンサーティーナの特徴について記述してみましたが、いかがでしたでしょうか。楽器選びについては難しい問題ですが、最後はフィーリングだと思います。特に他の楽器経験のある方は、本文中でも述べましたようにGoogleの画像検索でボタン配列を見て、演奏イメージを膨らませてみるのが一番いいと思います。

では、あなたにコンサーティーナとの素晴らしい出会いがありますように!