入門編: Gentle Giant の名盤を探る

イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンド、ジェントル・ジャイアント Gentle Giant。個性豊かなマルチ・プレーヤーの集団で、いわゆるプログレの代表的なバンドの中では最も中毒性の高いバンドなのではないでしょうか。テクニカルな面とともに非凡なポップ・センスも併せ持っており、ロック史に名を残す存在です。

ジェントル・ジャイアントが残したオリジナル・アルバムは11枚で、1970年から1980年がその活動時期です。またかなり多くの枚数のライヴ・アルバムや未発表音源集もリリースされています。はっきり言って彼らのオリジナル・アルバムにはハズレがないので、どれから聴いてもらってもいいのですが、ここではアルバム3枚をセレクトしてみました。

全盛期のメンバーはデレク・シャルマン Derek Shulman (Vo)、レイ・シャルマン Ray Shulman (B)、ケリー・ミネア Kerry Minnear (Key)、ゲイリー・グリーン Gary Green (G)、ジョン・ウェザーズ John Weathers (Ds)の5人です。

主な担当楽器は、デレクがヴォーカル、サックス。レイがベース、ヴァイオリン、トランペット。ケリーがキーボード、チェロ、マリンバ、ヴィブラフォン、ティンパニ。ゲイリーがギター、マンドリン。ジョンがドラムス、パーカッションです。

ここで書いたのはあくまで「主な」担当で、ヴォーカルはほぼ全員がこなせますし、ライヴではメンバー全員が同時にギターを手にしたり、全員でパーカッションを叩いたりもします。作曲面ではデレク、レイ、ケリーの3人が中心となっていたようです。

Gentle Giant (1970)

初期の名盤、70年の1st。この頃はドラムスのマーティン・スミス Martin Smith 、管楽器を中心としたマルチプレーヤーのフィル・シャルマン Phil Shulman が参加していて、シャルマン3兄弟を中心とした6人編成のバンドでした。

ジャズ・ロックの傾向も見えますが、中心人物のケリー・ミネアがクラシック畑の出身だからでしょうか、クラシカルな味付けが目につきますね。かといってロックのダイナミズムも失われていません。ブラスとギター、オルガンの音色が迫り来るハードロックナンバー「Giant」でアルバムは幕を開けます。

2曲目の「Funny Ways」、4曲目の「Isn’t It Quiet and Cold」はクラシカルなナンバーで、この1stを印象を方向付けている名曲でしょう。「Funny Ways」なんか思いっきりヴァイオリンとチェロの演奏から始まりますし。これがセッションミュージシャンを呼んでの演奏なら、先進的ではあるがまああり得るかなという感じですが、メンバー自身が演奏しているというのだから恐ろしいです。

後半の「Why Not?」も見逃せません。彼らはこの1stの時点で既に一流のハードロックバンドでもありました。リードヴォーカルはデレクとケリー。とにかく全員のマルチプレーヤーぶりが目立つこのバンドですが、シンプルにロックバンドとして見ると、ヴォーカルのデレクというのは声量があって非常に存在感のある人なんですね。それからこの曲は粘り気のあるバタバタとしたドラムスも印象的です。

このアルバムが気に入られた方は、2ndの「Acquiring the Taste」(1971) あたりに進んでみるとよいでしょう。

Octopus (1972)

中期の名盤、72年の4th。ヒプノシス Hipgnosis によるジャケットアートワークも有名ですね。このアルバムからドラムスにジョン・ウェザーズが加入し、全盛期のラインナップが揃いました。フィルも在籍した6人編成ですが、フィルはこのアルバムを最後にバンドを脱退しています。

彼らの演奏能力、ソングライティングとアレンジのセンスの高さが存分に発揮された作品です。ケリーのヴォーカルで幕を開ける「The Advent of Panurge」は複雑に入り組んだヴォーカルパートとバンドアンサンブルからなり、彼らのライヴでも頻繁に演奏された代表曲です。

2曲目「Raconteur Troubadour」はヴァイオリンが入り、どこか現代音楽的な雰囲気の楽曲ですね。ケリー作曲の4曲目「Knots」は完全に現代音楽です。シャルマン3兄弟とケリーによる4人のヴォーカルがこれでもかとばかりに複雑に重ねられています。バンドサウンドも非常に不思議な雰囲気です。

5曲目「The Boys in the Band」はインスト曲。これは強烈な曲で、サックスとキーボードによるメロディに乗せてジョンのドラムスが縦横無尽に暴れ回ります。ほとんどドラムのための楽曲ですね。その発想がすごいです。

6曲目「Dog’s Life」はクラシカルな楽曲、7曲目「Think of Me with Kindness」はケリーによる優しいヴォーカル曲です。そしてラストの雄大な楽曲「River」でアルバムは幕を閉じます。

このアルバムは2015年にスティーブン・ウィルソン Steven Wilson によるリミックス盤も発売されており、良好な音質で聴きたい方はそちらを手に入れてみるのもよいかもしれません。

本作が気に入られた方は、5thの「In a Glass House」(1973) に進んでみるとよいかと思います。

Free Hand (1975)

後期の名盤、75年の7th。ラインナップは5thから固定された全盛期の5人のメンバーによるものです。ジェントル・ジャイアントのサウンドの完成を見た傑作です。このアルバムと先述の「Octopus」と、どちらを彼らの最高傑作とするかは意見の分かれるところでしょう。(もちろん他のアルバムがという方もいらっしゃると思います。)

1曲目「Just the Same」はヴォーカルとリズムセクションで曲の拍子が異なるという極めてトリッキーな曲。ベースのレイの存在感がいいですね。このバンドのリズム隊、ベースのレイとドラムスのジョンは硬質で本当に特異なグルーヴを見せてくれます。

2曲目の「On Reflection」はおそらく他のどんなロックバンドにも類似例を見出せない楽曲で、4声のアカペラによるカノンから始まります。中間部の美しいヴォーカルパートを経て、ラストは再びギター、キーボード、ベースによる4声のカノン。度肝を抜かれます。この曲を持ってして彼らの最高傑作と言うことには、おそらく異論はないのではないでしょうか。

3曲目のタイトルトラック「Free Hand」はジャズテイストも少し混じったハードなロックナンバー。4曲目の「Time to Kill」もロックナンバーですが、各パートが非常に厳格に作曲されているという印象があります。6曲目「His Last Voyage」はヴォーカルパートの美しい静かな楽曲。

7曲目「Talybont」も非常に美しく作曲されたインスト曲です。このアルバム、作曲能力がとにかく並のロックバンドではありえない領域に達していますね。クラヴィネット等の鍵盤楽器の使用も多彩です。そしてラストはヴァイオリンの入った軽快なロックナンバー「Mobile」でアルバムは幕を閉じます。

このアルバムが気に入った方は、前作である「The Power and the Glory」(1974)、次回作である「Interview」(1976)などを聴いてみるとよいでしょう。

おわりに

先述のとおり、ジェントル・ジャイアントの作品にはハズレなしです。ここで紹介した3枚をベースに、気に入ったものから周辺のアルバムに手を伸ばしていくのがよいでしょう。

最後に個人的な話をさせていただくと、ジェントル・ジャイアントは私にとってオールタイムのロック史の中でも最も好きなバンドです。そしてオールタイムでベストのベーシスト、キーボーディストを挙げるとしたら、私はレイ・シャルマンとケリー・ミネアの名前を挙げるでしょう。

あなたがぜひジェントル・ジャイアントの素晴らしい世界へと足を踏み入れてくれることを期待します。では、このバンドの素晴らしい世界をぜひお楽しみください!