テクニカル分析の大前提とシステムトレード入門

株式や為替等のチャートが示す情報から、値上がり・値下がり等の兆候を掴もうとする手法であるテクニカル分析。ある人はさまざまな指標を使って値上がりする株を見つけようと奮闘するでしょうし、またある人はそんなものは根拠のない迷信だと言うでしょう。

では、実際のところどうなのでしょうか? ファンダメンタル分析のような財務情報を一切考慮しないテクニカル分析には、何かしらの根拠があるのでしょうか?

なお、この記事で見慣れない単語等が出てきたら、その都度調べてみることをおすすめします。徹底的に自己責任の世界である投資の世界では、自分の手で調べて、自分の頭で考えるということが何よりも重要になるからです。

またこの記事ではシステムトレードという言葉が出てきますが、この記事は特定のシステムの使用を推奨したりするものではありません。投資の世界では多くの記事があなたに何かを勧誘する目的で書かれているという事実も忘れないでください。自分の身は自分で守る必要があります。なおこの記事は、投資とブログ執筆を趣味とする一個人である、筆者のささやかな楽しみを目的として書かれています。

テクニカル分析の特徴は「検証可能性」

何日の移動平均線を上抜けしたら「買い」。RSIがいくつ以上になったら「売り」。こうした言説をどこかで見たとしましょう。こうした情報の多くには、データ上の裏付けがありません。仮にあったとしても、おそらく私たちの多くはそれを検証する手段を持ち合わせていません。

テクニカル分析の特徴は、売買ルールを完全に客観的に定義できることと、それを過去のチャートに当てはめて検証できることにあります。過去のチャート情報のことはヒストリカルデータと呼びます。このような客観的な売買ルールとヒストリカルデータによる検証をバックテストと呼びます。

テクニカル分析を解説するとき、これを強調する人が少ないのは何とも不思議なことです。たとえば家を建てる場合であれば、(1) 耐震基準等を満たすように理論の上での寸法を図面に引き、(2) 図面に引かれた値が現実になるように精密なメジャーを使用して建築作業を行うでしょう。テクニカル指標そのものは、それ単体では寸法を測るメジャーに当たる道具に過ぎません。ある設計上の値に特定の数字を使用するといった場合には、先の例で挙げた耐震基準の計算など、理論的な裏付けがあって初めて意味を成します。そしてその理論的な裏付けは、別途行う必要があるのです。

仮にあなたが個別株の取引で「20日移動平均線を上抜けしたら買い」というルールに有効性があると思うなら、個別株で可能な限りのヒストリカルデータを入手し、実際にそのルールを当てはめて、どのような価格推移をするのかを検証する必要があるということです。

システムを使用した「システムトレード」

このような検証は一般的なExcel等の表計算ソフトのみで行うことは難しく、多くの場合、専用のソフトが必要になります。その理由は、ヒストリカルデータの膨大さにあります。

たとえばコインを投げたとき、表が出る確率は50%ですが、仮にこの確率が未知だったとしましょう。ここで試しに5回コインを投げたとしたら、おそらく2〜3回表が出ることのほうが多いでしょうが、表が1回も出ないということもあれば、5回とも表が出るということもあるでしょう。(コインを5回投げてすべて同じ面が出る確率は16分の1で、それほど珍しいことではありません。)

ではここでコインを1,000回投げたとしたらどうでしょうか? おそらく表が出る回数は「500回」にかなり近いものとなるはずです。試行を数多く繰り返すほど正確な値が推測できる。これを大数の法則と言います。

個別株であれ為替であれ、膨大な量のヒストリカルデータが必要となるのはこのためです。あなたの考えた売買ルールを何百回と検証できるだけの膨大なデータが必要となるのです。そしてそのような量のデータを手作業で扱うことは現実的でないため、専用のソフトウェアを使う必要があるのです。こうした専用のソフトを使用した、バックテストの結果に基づいた客観的な売買ルールによるトレードをシステムトレードと言います。

この記事は広告記事ではないため、具体的な専用ソフトウェアの紹介はしないこととします。あなたがお使いの証券会社で、「システムトレード」「シストレ」と呼ばれるサービスが提供されていないか調べてみてください。また、証券会社を限定せずに使える、Windows向けの専用ソフトウェアの販売なども行われています。

余談ですが、このようなトレーディングシステムを自力で構築することは不可能ではありません。この記事の筆者の本業はシステムエンジニアですが、あるとき個人的なプロジェクトとして、主にPythonを使用した個別株のトレードシステムをLinux上に構築したことがあります。しかしこれはフルタイムの仕事に相当するボリュームで、週末の趣味のプログラミングとしてはとても実現できない規模のものでした。

システムを入手したら

あなたのご自宅の環境で使えるトレーディングシステムが見つかりましたか。ここまででだいぶめんどくさくなってきたでしょうか。そうです、投資というのは面倒くさい仕事です。楽して儲けようなどという考えは捨ててください。

システムを入手したら、あとはひたすら売買ルールを考えて、バックテストによる検証を繰り返します。もう一度書きますが、これは相当に面倒くさい仕事です。おそらくこうした作業にハマれる人しか続かないでしょう。

ある客観的な「買い」と「売り」のルールを設定し、バックテストにより「そのルールで売買を行ったときのリターンの期待値」を算出するのです。さきほどコインを投げる例で表が出る確率を推測したように、何百回というバックテストのサンプルをもとに、プラスのリターンが見込まれる売買ルールを見つけ出すのです。

考えるべき問題はいろいろあります。まずプラスの期待値が得られるルールは見つかるのか。見つかったとして、それは過去の市場だけでなく現在の市場でも有効なのか。検証のサンプル数が少なくて、カーブフィッティングという問題を起こしてしまっていないか。あるいは、出来高が少なすぎて現実の約定が難しいサンプルが含まれていないか。最大ドローダウンはどの程度か、そして自分の心理はそれに冷静に耐えられるかどうか。

今、おそらく見慣れない単語が複数出てきたかと思いますが(あえて解説せずに書きました)、システムトレードの専門書籍や解説サイトなどで調べてみるとよいでしょう。システムトレードにはその独自の奥深い世界があることがわかると思います。

結局、それは「割に合う仕事」なのか

では、この記事で言いたかった内容を繰り返しましょう。テクニカル指標は単なる測定道具で、バックテストによる検証こそが最も重要です。

さて、結局それは「割に合う仕事」なのでしょうか? システムトレードの世界では平均年利にして数十%という数字が謳われることがあり、これがもし現実ならば投資の世界では相当に高いリターンであると言えます。

ここから先は私の私見です。直感的に見て、年利数十%のリターンというのはかなり難しい仕事を行わない限り達成できない成果だと思います。効率的市場仮説という言葉にもあるとおり、市場というのは基本的に効率的なものです。テクニカル分析のような短期売買で利益の源泉となるのは、おそらく市場参加者の「心理」に起因する市場の歪みでしょう。それが年利数十%相当のリターンをもたらすほど大きなものかと言われると、ちょっと疑問を抱かずにはいられません。

私の個人的な感覚では、年利にして10%のリターンと言われたら信じる。15%のリターンと言われれてもまあ信じる。20%を超えると少し疑わしくなる。といった感じでしょうか。あまりにも大きな数字は、先述したカーブフィッティングの問題などにより、実際には実現できないリターンである可能性が高いからです。

仮に年利10〜15%といった数字が現実的なリターンだとして、それらが割に合う仕事と言えるかどうかは、人によってそれぞれだと思います。バックテストにかかる労力だけでなく、いわゆるアクティブ投資の心理的な負担というのは相当なものです。自分の判断に何百万円ものお金を賭けるというのは、実際にやってみないとなかなかその辛さはわかるものではありません。それらの点を総合して考えると、ちょっと割に合わないかな、というのが私のテクニカル分析に関する結論です。

投資の世界にはインデックス投資という比較的安全な方法があり、そこではさほど手間をかけずに年利数%のリターンを見込むことができると言われています。インデックス投資については過去の記事「簡単で確実な投資の方法とは」で詳しく書きましたので、そちらをご参照ください。

長々と書きましたが、結局システムトレードなどのアクティブ投資よりもインデックスなどのパッシブ投資がいいよ、という結論になってしまいました。私としましては、この記事をもって「根拠のないテクニカル分析によってお金を失ってしまった」という人が少しでも減ってくれることを願うものであります。では。