発達障害と就職: 障害者雇用の困難、就労継続の困難…

障害のある人はその障害に応じて特有の苦労を抱えるものですが、発達障害当事者の就職というのもまた難しい問題であります。ここでは私自身の経験も交えて、発達障害当事者の就職について語ってみたいと思います。

意外な大敵の「疲れやすさ」

以前、私は「発達障害の二次障害によるうつ病とその対処」という記事を書いたことがあります。発達障害の持つ性質は、ふつうの人にとっては何でもない「日常生活」こそが当事者をじわじわと疲れさせるものであり、その疲れの蓄積がうつ病等を引き起こすことがあると述べたものでした。

発達障害当事者が持つ特有の「疲れやすさ」については、この障害の代表的な症状として語られることは少ないまでも、近年は当事者の事情をよく知る支援者などによって少しずつ明らかにされてきたところだと思います。

おそらく周囲の人も「コミュニケーションが苦手」と言えば多少は想像ができますが、この「異常な疲れやすさ」については想像が難しいのではないでしょうか。

たとえば私は暗くなってから外出などをして人と会ったりすると、神経が疲れてしまってざわざわとして落ち着かず、その日は夜遅くまで眠れなくなることが普通です。夜眠れないと翌日はてきめんに調子が悪くなるので、夜間の外出は基本的にNGです。

遊びに出かける場合ですらそれですから、夜遅くまでの残業などは当然できません。残念ながら日本の会社はいまだに残業体質から抜け出せていないところが多いですから、この残業をめぐって体調を崩して困っている当事者というのは一定数いるのではないでしょうか。

障害者雇用の難しさ

もしもあなたが障害者手帳を持っているのなら、企業に障害者雇用枠で就職することができます。障害の内容をオープンにして、企業に一定の配慮を求めながら働くことができるのです。

しかしこれが、なかなか難しいのですね。「配慮を求めることができる」。具体的には何を配慮してもらえばいいのでしょうか? 当事者のみなさん、この質問にうまく答えられますか? 私は正直言って、うまく答えられないです。

たとえば先ほど出た残業のことなどは比較的わかりやすい例です。残業を月あたり何時間以下にしてほしいと言うのなら、数字で定義できることですし、企業の方も比較的対応しやすいでしょう。

しかし、「コミュニケーションが苦手」という点に関しては? 一体周囲はどんな配慮をすればいいというのでしょうか? 障害者雇用とはいえ、企業が人を雇うというのにはそれなりの選別の過程があり、企業は分かりやすい対応のできる人材を求めているはずです。「○○という障害がある」→「しかし○○という配慮があれば他の人と同じように働くことができる」というストーリーが求められるわけですね。その説明責任は、企業への応募者である当事者の側にあります。

私は「言葉で説明できるような分かりやすい対処法があるなら、こんな苦労はしていない」というのが、大方の当事者の思いなのではないかと思います。

働き続けることの難しさ

先に述べた「疲れやすさ」と、職場でのコミュニケーションなどのさまざまなストレス要因によって、仕事を続けるということは発達障害当事者にとって大変な困難となります。ある人はもう限界だと思って自分から仕事を辞めてしまうでしょうし、またある人は限界を超えて頑張ってしまって身体を壊してしまい、やはりそれで仕事を辞めてしまうかもしれません。

一般的なうつ病の人向けにはリワークというものがありますし、精神障害を持つ人全般に対しては就労移行支援、就労定着支援といった福祉サービスもあります。私としては、医療・福祉関係者の努力はとてもよく分かるのですが…これらの支援が発達障害者をうまく支えられているかというと、これもまた微妙なところかもしれないと思います。

疲れやすさ、コミュニケーションの不器用さというのは簡単に何とかできるものじゃないんですね。私にはこれが何らかのトレーニングで強く改善するとはあまり思えないです。学生がビジネスマナーを身につけるのと同じような意味でのソーシャルスキルの向上はあり得るでしょう。しかし、発達障害の当事者にとって健常者の世界というのは、依然として「異世界」のままです。

私たちはこの「異世界」に適応しようと日々奮闘しているんですね。職場への適応は異世界への適応です。これをうまくこなせている当事者がどの程度いるのか…少なくとも休日にどこかへ遊びに出かけたりする程度の元気さを持って生活できている人がどの程度いるのか、私は常々疑問に思っています。

おわりに

なんだか景気の悪い話になってしまいました。しかし、これが発達障害当事者のリアルです。魔法のように状況が好転することはおそらくないでしょう。

同じように世界と闘ってらっしゃるみなさんに対しては、どうか負けないで、と思いますね。負けないで生き続けること。とにかくそれだけを祈っています。