発達障害と職業選択 – 就職、転職で失敗しないために

ASD(自閉症スペクトラム症)やADHD(注意欠陥・多動性障害)を持つ当事者にとって、職業選択というのは大きな問題です。今回はそんな発達障害当事者の適職探しについて考えてみたいと思います。

最初に述べておきますが、当事者に適した業種や職種というものについての簡単な答えはありません。われわれは失敗しながら、傷つきながら、この問題に対処していく必要があります。

長所を活かすべきなのか

発達障害の当事者というのは、能力の凸凹が激しい人間です。ではその凸凹の「凸」の部分、つまり長所を活かせばいいという考え方が存在しますね。これはよくある発想ではありますが、当事者から言わせるとそんな安直なものではないという反発も聞こえてきそうです。事実、私もそう思います。ちょっと安直すぎます。

しかし、実際に社会でサバイバルをしていく上では、長所を活かす以外に生きていく道はなさそうだ、というのも事実です。仕事はできるけどちょっと変わった人、というポジションをどうにかして手に入れるのです。

しかし、これはやはり単純な道ではありません。長所だけを使用すれば済む仕事というのは、おそらく世の中にはそうそう存在しないからです。

筆者の例を出しましょう。ASDの人には珍しくないと思いますが、私はコンピュータに強い人間で、小さい頃からプログラミングを遊びで覚えてしまっていました。自然な流れとして、私は新卒でSE(システムエンジニア)という職業を選びました。世の中に存在するソフトウェアを作るお仕事です。

しかし、SEの仕事は簡単なものではありませんでした。ソフトウェアの開発というのは、思った以上に人とのコミュニケーションが必要とされます。また、長時間労働が常態化しているという点もよくありませんでした。結局、私は就職して1年少々で、身体を壊して休職してしまうこととなります。

私は間違いなく、その当時考えうる自分の最大の長所を利用して就職したのです。しかし、それは失敗しました。発達障害当事者の就職では、自分の短所にどれだけうまく対処できるかが重要であるということを、当時の私は知らなかったのです。

対人関係から見た仕事の形態

先の例でも出てきたとおり、他者とのコミュニケーションというのは当事者にとって鬼門となるものでしょう。ここで少し、対人関係から見た仕事の形態について考えてみたいと思います。

BtoB」や「BtoC」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。それぞれ「Business to Business」と「Business to Consumer」の略で、「企業と企業同士のお仕事」と「企業と一般消費者の間のお仕事」を指しています。

たとえば自動車の部品を加工するメーカーでしたら、取引先は自動車を製造するメーカーですから、これはBtoBの企業です。一方で自動車の販売店でしたら、われわれ一般のお客さんを相手に車を売るお仕事ですから、これはBtoCの企業です。

そして「BtoB」の企業の中にも、働く人にはふたつのタイプがいます。自動車の部品を加工するメーカーの場合、営業部のように取引先の人と接する仕事と、製造部のように社内の中だけで完結する仕事があります。

以上をまとめると、対人関係から見た仕事の形態には、以下の3種類が存在することが分かると思います。

  1. 完全に社内の中だけで完結する仕事(例:自動車部品メーカーの製造部)
  2. 社外の企業を相手にする仕事(例:自動車部品メーカーの営業部)
  3. 一般の消費者を相手にする仕事(例:自動車販売店の販売員)

さて、発達障害を持つ当事者はどの仕事を選ぶべきでしょうか。おそらくパッと見で分かったことでしょう。1が最もやさしく、3が最も困難です。1、2、3の順番に難しくなっていくのです。

1の社内の中だけで完結する仕事は、人間関係がある程度固定的です。あなたの特徴をよく理解してくれる人と働ける可能性が高いということです。2の社外の企業を相手にする仕事になると、必要な社会的スキルが少し上がります。3の一般の消費者を相手にする仕事になると、最も高度な社会的スキルが必要になってきます。

ここでは可能な限り、社内の人間関係だけで完結する仕事をおすすめします。長期的な視点で、何か特殊な技能を身につけて働ける仕事が理想的でしょう。たとえば金属加工の技術を身につけて、メーカーの製造ラインで働く、といったことがこの働き方の一例だと思います。

大企業か中小企業か

働く場所を選ぶ上で、大企業中小企業かというのも考えるべきひとつの区分となります。

大企業は一般に、体調を崩した場合の休職制度などを含めた福利厚生面が手厚いこと、ある程度は社員の多様性を許容する土壌がある見込みが高いこと、障害者雇用の存在などのメリットがあります。逆にデメリットとしては、転勤による環境の変化のリスクなどが存在するでしょう。

中小企業は社風による当たり外れが激しく、一般論を述べるのは正直なところ難しいです。一般的には、仕事の進め方が社員の裁量に任されることが多いことはメリットと呼べるでしょう。逆にデメリットとしては、雑務を含めて何でもやる必要があるのでマルチプレーヤーであることを要求される、休職制度がないなどセーフティネットがもろい傾向があることなどが挙げられます。

発達障害の当事者が大企業と中小企業のどちらを選ぶべきか、一般論にどちらがよいと言い切るのは困難です。リスクとリターンの大きさという点では、中小企業のほうが大きいというべきです。運が良ければ自分にマッチした環境で比較的自由にやらせてもらえる可能性がありますが、社風や人間関係の面で自分に合わなかった場合は非常に居づらくなる可能性があります。

健常者の就職でも同じですが、会社というのは結局、入ってみないと分からない面が非常に多いものです。ある程度のリスクは覚悟の上で、就職活動に当たる必要があると言えるでしょう。

おわりに

発達障害者の就職について、当事者の長所と短所という視点、対人関係という視点、会社の規模という視点で考えてみました。あなたの参考になる部分がありましたら幸いです。

私はこの記事の他にも、発達障害当事者の社会適応やメンタルヘルス全般に関する話題を多く書いています。よろしければこのブログの「発達障害」タグや「メンタルヘルス」タグの記事をご覧ください。

あなたがこの大きな困難を乗り越え、無事に就労を継続していけることを願っています。