入門編: Autechre の名盤を探る

イギリスのエレクトロニック・デュオ、オウテカ Autechre。電子音楽の分野で常に新しい世界を切り開いてきた開拓者であり、IDM (Intelligent Dance Music) と呼ばれるジャンルを代表する存在でもあります。メンバーはロブ・ブラウン Rob Brown とショーン・ブース Sean Booth の2人で、長年 Warp Records の看板アーティストとして活躍してきました。

キャリアも長く、比較的多作な彼らの作品ですが、ここでは入門にふさわしいと思われる3枚をセレクトしてみました。

Amber (1994)

1994年の2nd。彼らのアルバムとしては比較的メロディアスで聴きやすいと言われていますが、極めて実験的な音楽に取り組んできた彼らの中での「比較的聴きやすい」ですから、これでも相当に抽象的な音響です。

初めてオウテカを聴かれた方は、1曲目「Foil」の持続的な反響音とかすれるようなビートにはまずびっくりされるだろうと思います。2曲目「Montreal」もなかなか不穏な始まり方をしますが、よく聴いているとその美しさが見えてくるものだから不思議です。

4曲目「Slip」はどこかユーモラスな音。エイフェックス・ツイン Aphex Twin などにも通じる部分があるように思うのは気のせいでしょうか。7曲目「Nine」はメロディが美しいトラック。8曲目「Further」は幻想的なシンセの音色とビートが響く長尺の曲です。

オウテカの入門盤としては比較的おすすめできる作品です。初期の名盤ですね。

Confield (2001)

2001年の6th。めちゃくちゃ先鋭的な音です。ビートの解体がここに極まった印象ですね。リリース当時はかなり反響を呼んだ作品のようです。

1曲目「VI Scose Poise」は何か金属的な物体が転がるような音から、断片的なシンセのメロディへ続く曲。ジャケット・アートワークとも相まって、非常に冷ややかな印象を受けます。2曲目「Cfern」は不規則なビートの曲。3曲目「Pen Expers」は激しいドラムの音から始まりますが、その激しいビートも開始してすぐにエフェクトに飲み込まれていくという混沌とした曲です。

5曲目「Parhelic Triangle」も何とも形容しがたい音色による不規則なビートの曲です。8曲目「Uviol」はやや規則性のあるビートに戻りますが、冷たく混沌とした雰囲気は続いています。

間違いなく彼らを代表する傑作だと思いますが、実験音楽が好きな方以外には、入門盤としては少し難解だと思います。ここで紹介している他の2枚を聴いてから本作を聴くことをおすすめします。

Oversteps (2010)

2010年の10th。これはかなりメロディアスで聴きやすい作品です。オウテカがこれまでに進化させてきた音響面の美しさと、珍しくも発揮されたメロディ面のセンスが高いレベルで融合している名盤です。

1曲目「r ess」は序曲とも呼べるトラック。そして2曲目「ilanders」で本作を特徴づける、美しく明確なメロディとリズムが現れます。4曲目「pt2ph8」もメロディと音響の美しい曲。

5曲目「qplay」もメロディが美しい曲ですが、過去の実験的な作品で培ってきた音響感覚がビートに活かされていると思います。10曲目「d-sho qub」は軽快でありながらもどこか憂いを帯びたメロディが印象的です。

本作のリリース時期には姉妹盤とも言えるEP「Move of Ten」(2010)が出ているので、本作が気に入った方はそちらもチェックしてみるとよいでしょう。EPのほうは本作に比べてビートが強調された音となっており、これもまた非常に魅力的です。