愛は無料! 愛で今すぐ資本主義を滅ぼせ!

「これは世界の基本的な法則に反しているのでは?」と思うものがときどきあります。

たとえば、私の好きな楽器というものは、おおむねその品質が値段に比例しています。職人さんが苦労して身につけた技術で時間をかけて作っているのですから、高い品質に対価が必要なのは当然ですね。ここでは「よいものは高い」というのが基本的な法則です。たまにワインのように、投機対象になっていたり、人気や希少性によって価格が釣り上げられてしまうものもありますが、そういうケースで不自然に値段が高いということはあっても、よいものが不自然に安いということはほとんどないと思います。

この例外が書籍です。新品の本に限って言えば、内容がよいということは、本の値段にはほとんど関係がありません。学術的なものなど、制作に手間がかかっていて流通量も少ないようなものは少し高くなりますが、それでも1冊が4千円だとかその程度の話で、これがいきなり20万円になるということはまずないです。まあ、どこぞの教祖様のありがたい自伝がそういう値段になることはあるかもしれませんが……あれは主観的価値の問題なので……(よくわかりませんが……。)

さて、世の中にはこのように、すごく価値があるにも関わらずあまりお金を払わなくていいというものが存在します。人間関係の中にもそれはあります。それは愛情です。具体的には、関心感謝といった形で表されるものです。

誰かに「ありがとう」とか「助かりました」と言うことや、好きだとか面白いとか思っている人にそれを伝えることに、お金がかかるでしょうか? かかりませんよね。そして、逆にそういうことを自分が言われる場合にはどのように感じるでしょう? すごく嬉しいはずです。人間は社会的な生き物なので、人から認められるとか感謝されるといったことには強い価値を感じますし、そうしたものを与えてくれる人の存在なしには、ほとんど生きていくことができません。感謝や関心を口にすることには、何もコストがかかりません。つまり、無から有が生み出されています。こうしたことは、物質的な生活とか商売の世界の中ではまずあり得ないことです。

実際には、人と関係を築いたりするには長い時間がかかりますし、そういう関係を築くためのスキルというのも、長年の経験で培う必要があるものです。そういう意味でのコストはかかっています。でも、これはレストランをやっていくなら必ず食材の仕入れ費が要るし店舗の家賃の支払いも必要みたいなこととは違って、大道芸を身につけたら一生自分の身ひとつで食っていけるぞ、みたいな話です。もちろん大道芸人の人だって、一度芸を身につけたら終わりではなくて、日々自分の芸を磨くということはしているでしょう。しかし、「芸は一生モノだ」ということには変わりありません。人間関係のスキルもそうです。人として日々成長していく必要はありますが、身につけたスキルは一生モノです。

人に心から愛情を持って、関心や感謝を示せるようになるには、ある程度まで自分自身に対して無頓着になるということが必要になります。自意識にとらわれている人は、自分は相手からどう思われるのかといったことばかり心配してしまうので、相手の存在そのものをちゃんと見るということができません。相手をちゃんと見ていないのであれば、一方的に好きだとか言ってみても、それは相手にとってあまり意味のないことです。愛情は本物である必要があります。自己中心的なものであったり、打算で作られたものであれば、それは見破られます。

愛情をばらまける人間になるといいと思います。そうすれば、あなたはすごい量のお返しを受け取ることができます。ただ、お返し自体を目的にするとうまくいきません。人には人の好き嫌いがあり、愛情は返ってこない場合も多いからです。必ず得られると思っているなら、それは期待を裏切られることになるので、そうなると続きません。あくまで、庭に生えていて毎年勝手にぼとぼと果実を落とす木みたいな存在になる必要があります。

結局のところ、愛されずに生きていくなら、人生は苦行でしかないです。自分が愛されるためにも、何かを愛せるようになったほうがいいと思います。

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